歯周病とは
昔(1920年代)は「歯槽膿漏」と言われていましたが、それは歯茎から膿が出ているという一部の状態だけを表している言葉なので、現代では歯を支えている組織がバイキンに侵され炎症を起こしている状態の病気という意味で、「歯周病」という言葉が使われるようになりました。簡単に言うと歯周病とはお口の中にいるバイキンによっておきる感染症のことです。このバイキンが増えすぎると体が抵抗できなくなり炎症がおきてきます。又、普段は抵抗できているけどストレスがかかったりするとバイキンが少なくても抵抗できなくなり炎症がひどくなったりします。図にすると歯周病が発生する一番の原因はバイキンで、一番大きな楕円になりますが、身体の力、ストレス、食生活なども関係があるのです。 歯周病の成因は、3つが混ざり合うのでちょっと複雑です。 お口の手入れが適当でも、免疫力が強いと、結構丈夫な歯で過ごせたりする方もみえる訳です。(臨床歯周病学 医歯薬出版より)
歯周病の原因菌について
ここでバイキンが大きな役割を果たしているので、バイキン(細菌)についてちょっと詳しく。お口の中には500種類以上の細菌がいると言われています。その中で歯周病の発症に関与していると言われている菌を歯周病原因菌と呼び、主なものに次のようなものがいます。(臨床歯周病学 医歯薬出版より)
1.Porphyromonas gingivalis ポルフィロモナス ジンジバリス |
嫌気性グラム陰性桿菌で黒色色素を産出する。 病原因子として、リポ多糖、赤血球凝集素、線毛、ジンジパイン、コラゲナーゼなどを持つ。 |
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2.Actinobacillus actinomycetemcomitans アクチノバシラス アクチノマイセテムコミタンス |
通性嫌気性桿菌で、病原因子としてリポ多糖、線毛、ロイコトキシン、細胞膨化致死毒素を有する。 |
3.Tannnerella forsythia |
グラム陰性嫌気性菌で、病原因子として、リポ多糖、トリプシン様プロテアーゼを有する。 |
4.Prevotella intermedia |
嫌気性グラム陰性桿菌で黒色色素を産出する病原因子としてリポ多糖、コラゲナーゼ、免疫グロブリン切断酵素を有する。 |
5.Treponema denticola
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病原因子としてプロテアーゼを有する。 |
6.Fusobacterium nucleatum フゾバクテリウム ヌクレアタム |
嫌気性グラム陰性桿菌、他の細菌との強い共凝集活性を有する。 | 7.Campylobacter rectus カンピロバクターレクタス |
グラム陰性運動性桿菌で、病原因子としてリポ多糖、鞭毛、表層特殊構造タンパク質(S-layer)を有する。 |
このうち1,3,5の菌種は重度の歯周病に深く関与していると言われレッドコンプレックスと呼ばれています。 検査方法の一つである位相差顕微鏡で観察するとお口の菌はこのように見えます。
うがいと歯ブラシで汚れを落とせるか?
このような菌群が歯の周りに残った食べカスなどに繁殖したものを歯垢(プラーク)と言いますが菌1種類ずつで悪さするのでなくお互いに肩を寄せ合い外界から簡単には殺菌されないような膜を作っていることが分かってきました。これをバイオフィルムと言います。これはうがいとか歯ブラシで取り除く事はできず、機械的(スケーリングとかルートプレーニング)に破壊するしか除去できません。
(GC歯周治療ガイドシートより)
歯の表面への沈着物と、それがうがい、歯ブラシで除去できるかどうかを表にしてみました。
( 臨床歯周病学 医歯薬出版より)
沈着して いるもの |
細菌の有無 | うがいでの 除去 |
歯ブラシでの 除去 |
特徴 |
ペリクル |
なし |
不可 |
不可 |
厚さ0.05~0.8μm 唾液の糖タンパク由来。 |
色素沈着 |
なし |
不可 |
不可 |
ペリクルに沈着した飲食物や嗜好品の色素。 |
食物残渣 |
なし |
可 |
可 |
食後、口腔内に一時的に残った食物由来の物質。 |
白質 |
あり |
可 |
可 |
剥離した上皮、白血球、菌、唾液などを含む。 |
プラーク |
あり |
不可 |
可 |
ペリクルに付着、凝集、増殖した細菌とその産物。 |
歯石 |
なし |
不可 |
不可 |
プラークが石灰化したもの。 |
ここで注目していただきたいのは、
「プラーク(歯垢)の状態だったら歯ブラシで取り除けますよ」
それが固くなって
「バイオフィルム、更に固まって歯石になるとちょっとやそっとでは取り除けず歯医者に来ていただいて機械で取るより仕方なくなるよ。」
という事です。このことが定期健診が重要である理由のひとつです。細菌による感染をまとめると下図のようになります。
歯周病の分類
簡単に歯周病の症状を示します。炎症(バイキンの毒)がどこまで進んでいるかによって分けてみます。GC歯周治療ガイドシートより
健康な歯肉
歯肉が健康なとき、歯は、歯周組織(歯肉、歯根膜、セメント質、歯槽骨) によってしっかり保持されています。
歯肉炎の歯肉
歯肉が炎症を起こすと、
赤くつやがあることもあり、磨くと出血しやすく、触れると痛むことがあります。
炎症は歯肉に限局して仮性ポケットが出現します。(アタッチメントロスなし)
軽度歯周病の歯肉
歯肉の炎症が進行してくると、発赤、膨張が著しくなり磨くと出血します。 歯の支持組織にも炎症が進み、歯周ポケットが形成され骨の吸収も始まります。 (アッタチメントロスを伴う。)
重度歯周病の歯肉
歯周病がさらに進むと、歯の支えの多くを失い、骨吸収が歯根徴の1/2以上になると歯はぐらつきはじめ、膿が出始めてくると口臭もひどくなり、やがて歯が抜けてしまします。(アッタチメントロスを伴う。)
症状によって歯周治療の流れは少しずつ変わります。バイキンが深く入り込んでいれば深いところまでお掃除しなければなりませんからね。
(日本歯周病学会「歯周病の検査・診断・治療計画の指針より」